木枯らしに肩を竦めながら飛び込んだ居酒屋は、暖簾をくぐった瞬間から湯気と笑い声で満ちていた。
「なんかさあ、結局は大根が一番うまいよなって。最近思うようになってきたんだって」
掘り炬燵の向かいで、ナルトがやけにしみじみそんなことを言う。ほら、昔だったら牛筋とか玉子とか、そういうのに飛びついたじゃん? あとウインナーとかさ。
「ウインナー?」
眉を寄せ聞き返すと、「ん?」とナルトも目線を上げこちらを見る。あれ、お前おでんにウインナー入れない派? すっかり酔いの回った様子の顔に、(うん)とも(ううん)とも返さず、ただ猪口を口に運ぶ。仲間内の新年会の後、二次会のそのまた〆の三件目。どれだけ盛り上がっていても、結局最後はふたりきりで飲むのはいつものことだ。最初の店からだいぶ飲んでいるらしいナルトは、にこにこと機嫌良さそうに話を続ける。
「まあだから、シンプルに味の良さに惹かれるっていうの?いろいろあってもさ、やっぱ出汁のしみた大根に箸が向くっつーか」
「へえ」
「ま、オレも大人になったってことだってばよ」
「大人になったというより、おっさんになったってことだろ」
「うっせえってばよ。サスケだって人のこと言えねえくせに」
なんかここんとこめっきり酔いやすくなったよな、サスケ。にんまりと向けられた指し箸に、ふんと視線を逸らす。まあ確かに十代や二十代の頃に比べたら、酒も食事も程よい量で満足できるようにはなった。しかしそれこそ節度を持てるようになったというだけだ、決して弱くなったわけではないし、ましてや衰えたということでもない。
「そんでさ、考えてみたんだけど、若い頃は単に刺激を求めてたんだと思うんだってばよ。とにかくパンチのある方がいいような気がして」
半分自分に語り掛けるように始められた言葉に、思わず「それ味の話か?」と質す。うーん、味もだけど、日常っていうか生活、みたいな? ほんの少し考えて、ナルトが答える。
「甘い! 辛い! 泣ける! 笑える!」
「……」
「みたいな。なんかそういう刺激的な暮らしの方が、キラキラしてるように見えたっつーか」
「今は?」
「今は……まあ変化のなさをじっくり味わうのも、悪くはないのかなって」
そう言って、ナルトは箸でさくりと、深皿に盛られた中で沈む大根を割る。きれいに半分になったそれを自分の器に移し、半月をさらに割ると、そのまま箸で刺しひょいと口に放り込んだ。
「…あっふ!」と頬張った口許をほふほふさせながら、それでもなんとも嬉しそうに赤い顔が笑う。
湯気にふやかされたような空色と、やわらかく笑んだ頬は幸せそのものだったが、向かいで眺めているうち、ちらりとその平和を乱してやりたいような気分が芽生えた。酔っ払いたちが大声で笑いあう中、掘り炬燵で隠れたテーブルの下、ごく静かな動きでそっと右足を伸ばす。
「へえ――そうか」
無防備でいた脛に裸足の足先が触れた瞬間、すぐに気付いたナルトはぴくりとその平和そうな笑いのまま固まった。
困惑を向けてくるその目を無視したまま、素知らぬ顔で手の内にある猪口へ視線を落とす。一方で、足先は迷うことなく膝裏を擽りながら、緊張する内腿の方へと撫でていった。
辿り着いた中心はまだ柔らかかったが、確かな期待が集まり始めている。つま先で下から持ち上げるように、もったりとした欲の重さを撫で上げた。上までなぞりきったところで、指の股で芯をもってきた茎をゆるやかに下へと扱きおろしてやる。面白半分に張り出してきた部分をかりかりと布の上から爪先で揶揄えば、広い背が「…ッ!」とピンと伸び、持っている割り箸がわずかに震えた。
「……新年早々、足癖が悪すぎんじぇねえの、サスケちゃん」
たまらずといった様子でナルトが呻く。思うがままの反応に、こちらもつい口の端が上がる。
「なに、本気?」
「まあな」
「マジかよ……本気でこっから関係変えてくんの? オレらじきに四十だぞ?」
「嫌か」
「はァ⁉ 嫌とかあるわけねえだろ、このオレを誰だと思ってんだ!」
ドン! とテーブルを叩きながら被せ気味に言いきられた答えに、「じゃあいいな」と酒を舐めれば、男はそれ以上なにも言えなくなったようだった。……いや、だからさ、嫌なんてのは絶対ないんだけどさ、けどこれまでそうなりたいと思っては堪えてきたオレってば一体なんだったんだっていうか、そういうの抜きの関係でもいいかって思えるようになるためオレがどんだけ苦労したと――などと、ひとり下を向いてはぶつぶつやっていたが、そのうちに(はっ)とした様子で突然声を潜める。
「けどサスケ、今日だいぶ飲んでんだろ。そんなんでやって大丈夫なのかよ……その、うしろ、初めてだろ?」
「そう思うならやめておくか」
「えっ――は、初めてじゃないの?」
「……」
「……ホントに平気? 途中で吐いたりとかしない?」
「どうだろうな。お前の結構でかそうだし」
言いながら、しれっと伸ばした足先でちょんとまだ余韻を残す膨らみをつついてやると、うっ、とナルトが眉を寄せた。
まあ――それなら精々、やさしくしてくれ。
頬杖のままそう目を細めると、視線が合った途端、赤かったその顔がますます真っ赤に染まる。
「もー…」という呟き。わざとらしい咳払いをひとつしてみせて、ちょっとぎこちなくナルトが腰を上げる。
テーブルに残された器の中では、金色に透きとおった出汁にあたたかな灯りがゆらゆらと揺れている。
「ほら、行くってばよ」と差し出された手を取ると、すぐさまぎゅっと掴まれて、普段よりほんの少し強引なその温度に思わず苦笑が漏れたが、引き上げられるがままオレはゆっくりと立ち上がった。
【end】
こちらもワンドロで書いたものを収納。NSワンドロ最終回に捧げたもの……だったのですが、普通に全然間に合わなくて、その年の年末に公開しました。(捧げるとは)
NSって実は天邪鬼なのはサスケの方だと思うので、時間かけて関係を作りあげたらあげたで、ふーんそうなんだな?みたいな感じであっけらかんとぶち壊しそうな気もします。ナルトくん、不憫だ……。
このあとおじさんふたりで、騒いだり黙ったり蹴ったり殴ったり縋りついたり甘くなったりしながら頑張っていただきたい。それぞれの立場で次世代を見守るふたりは激しく素敵だけれど、公式で書かれることのない未来に永遠の推しを夢みるのも、また悪くないのです。
